Intel Arc

Intel Arcについて

Intel Arc（インテル アーク）は、インテルが設計・開発しているコンシューマー向けのGraphics Processing Unit（GPU）のブランド名です。ゲーマーやクリエイターを主なターゲットとしており、NVIDIAのGeForceやAMDのRadeonシリーズと競合します。

語源と命名規則

「Arc」というブランド名は、アーキテクチャを物語のストーリーアークに見立てたことに由来しています。開発コードネームはRPGからインスパイアされており、アルファベット順に「Alchemist」、「Battlemage」、「Celestial」、「Druid」と続いています。

Arc Aシリーズ

第一世代の製品群で、Xe-HPGアーキテクチャを採用しています。開発コードネームは「Alchemist」で、TSMCのN6プロセスで製造されています。主な特徴は以下の通りです。

レイトレーシング対応: DirectX 12 Ultimateの「DirectX Raytracing」とVulkanの「Vulkan Ray Tracing」に対応しています。
Xeメディアエンジン: ビデオ処理ユニットとして、従来のAVC、HEVC、VP9コーデックに加え、業界初のAV1ハードウェアエンコードに対応しています。
Xeディスプレイエンジン: 最大4系統の同時映像出力が可能で、DisplayPort 2.0（UHBR10）やHDMI 2.0bに対応しています。オプションでHDMI 2.1準拠の出力端子も搭載できます。
発売時期: 当初2021年発売予定でしたが、ソフトウェア開発の遅延により延期を繰り返し、モバイル向けが2022年3月、デスクトップ向けが6月、最上位モデルArc A770は10月に発売されました。
Resizable BAR: 性能を最大限に引き出すために、Resizable BARの有効化が推奨されています。

Arc Aシリーズの評価

発売当初は、ゲームタイトルによるパフォーマンスのばらつきや、競合製品よりも高い消費電力が指摘されました。特に古いグラフィックスAPIで動作するゲームでは最適化不足が目立ち、インテルはドライバ更新による改善に努めました。価格対性能比は悪くないものの、最終的なゲーム性能では競合製品に及ばず、ゲーマーが積極的に選ぶGPUとはなりませんでした。

Arc Bシリーズ

第二世代の製品群で、Xe2アーキテクチャを採用しています。開発コードネームは「Battlemage」で、TSMCのN5プロセスで製造されています。主な特徴は以下の通りです。

性能向上: ベクターエンジンの刷新、レイトレーシングユニットの強化、L1キャッシュの増量などにより性能が向上しています。
演算効率の改善: 内部遅延やオーバーヘッドを低減し、処理時間を短縮し、演算効率を改善しています。これにより、前世代と比較してコア当たりの性能は70%、ワットパフォーマンスは50%向上しています。
映像出力: DisplayPort 2.1（UHBR 13.5）およびHDMI 2.1aに標準で対応しています。

IntelのGPU開発の歴史

Intel Arcは、インテルにとって3度目の単体GPU市場への挑戦です。

1度目の挑戦: 1998年に発売されたIntel 740は期待外れに終わり、後継のIntel 752は製品化されませんでした。しかし、Intel 752はIntel 810チップセットに統合GPUとして採用され、現在の統合GPUへとつながっています。
2度目の挑戦: PlayStation 4|PlayStation_4への採用も検討されたLarrabeeは、GPGPUを目標に開発されましたが、グラフィックス性能で競合に劣り、2009年末に製品化が断念されました。

インテルは統合GPU市場で圧倒的なシェアを持っていましたが、単体GPU市場ではNVIDIAとAMDに大きく水をあけられていました。その中で、NVIDIAの一強状態が続く単体GPU市場に参入する余地があると考え、Intel Arcの開発に至りました。

Iris Xe MAXの開発と発売

2017年、インテルはラジャ・コドゥリ氏を迎え、単体GPUの開発を本格化させました。2018年には2020年に単体GPUを投入することを発表し、2020年にはコードネーム「DG1」搭載のビデオカードを公開、10月には「Intel Iris Xe MAX Graphics」として正式に発表されました。しかし、Iris Xe MAXはTiger Lakeマイクロアーキテクチャの統合GPUを抜き出したに過ぎず、市場にはほとんど出回ることがありませんでした。

Arc Aシリーズの開発と発売

2020年8月、ゲーミング向け単体GPUの詳細は「Intel Architecture Day 2020」で発表され、Xe-HPGアーキテクチャの採用やレイトレーシングのハードウェアアクセラレーション対応が明らかにされました。2021年には出荷予定とされましたが、ソフトウェアの最適化作業が難航し、発売が遅れました。2021年8月に「Intel Arc」ブランドが発表され、2022年3月にモバイル向けArc Aシリーズが発売されました。その後、デスクトップ向けの発売も遅延しましたが、2022年9月にArc A380が、10月にはArc A770とA750が発売されました。2023年3月には、開発を率いていたラジャ・コドゥリ氏がインテルを退社しました。

Intel Arcは、インテルが長年の歴史の中で培ってきた技術と経験を活かして開発されたGPUです。今後、さらなる進化を遂げ、NVIDIAやAMDといった競合メーカーとの競争が激化することが予想されます。

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